【検証】Geminiの最強モデルArgonにクロスワード作成を丸投げしたら、使用量上限で自滅した話
私、人事や給与などの仕事の傍ら、会社のお客様向け情報誌に毎月掲載している「クロスワードパズル」の作成担当もしています。
読者に喜んでもらえるのは嬉しいのですが、正直なところ毎月かなりの時間をこのパズル作成に取られており、なかなかの負担になっていました。
「どうにかAIを使って、この作業をごっそり省力化できないものか……?」
そう思い立ち、先日「Geminiにクロスワードの作成を丸投げしてみたらどうなるか?」という実験を敢行してみました。
結論から言うと、見事なまでに玉砕。
しかし、その失敗プロセスと「なぜGeminiにクロスワードが作れないのか」を掘り下げてみると、生成AIという技術の意外な弱点と本質が見えてきて、非常に面白い体験となりました。今回はその顛末をまとめてみます。
きっかけ:「GeminiのArgonなら8×8くらい一瞬で作れるのでは?」
業務効率化の救世主として、高度な思考・推論能力を持つ最新のフラッグシップモデル「Argon」を使ってみることにしました。
「これだけ話題になっているArgonなら、8×8マスの正方形クロスワードくらい一瞬で完璧に仕上げてくれるはず!」
そう期待して、さっそくプロンプトを投げました。

以下のルールで1月号に掲載するクロスワードを作ってみて
- 実際のプロンプトはこちら
-
季節や月を特定させないニュートラルな単語(通年ワード)の利用許可と、その使用基準を明確に位置づけた最新版レギュレーションです。
カタカナ・クロスワードパズル制作レギュレーション(8×8版)
1. 盤面サイズとマスの基本構造
- 盤面サイズ:
- タテ8マス × ヨコ8マスの合計64マスで構成します。
- 単語の始点(始まり)の定義:
- ヨコ方向の単語: 「盤面の最左列(1列目)」または「黒マスのすぐ右隣の白マス」から始まります。
- タテ方向の単語: 「盤面の最上段(1行目)」または「黒マスのすぐ下の白マス」から始まります。
- 単語の終点(おしまい)の定義:
- ヨコ方向の単語: 「盤面の最右列(8列目)」または「直後に黒マスが配置された白マス」で終わります。
- タテ方向の単語: 「盤面の最下段(8行目)」または「直下に黒マスが配置された白マス」で終わります。
- 単語長の境界制御(文字の途切れ禁止):
- 始点から黒マスまたは外枠(罫線)に突き当たるまでを1つの連続した単語として扱います。途中で勝手に単語を切ったり、意味のない文字の余りを作ったりしてはいけません。
2. 語彙・品詞の基本原則(ワードチョイス)
- 実在する単語の厳守(造語の絶対禁止):
- 一般の国語辞典や百科事典に現に掲載されている言葉のみを使用します。
- 交差を合わせるためだけに文字を並べた架空の語、独自の略語、身内ネタなどの造語は一切禁止です。
- タテ・ヨコ全ラインの意味成立:
- 白マスで繋がるすべてのライン(タテ・ヨコ)において、始点から終点まで読んだ文字列が、例外なく実在する単語として意味を成していなければなりません。
- 品詞は「名詞」のみ限定(動詞・副詞・助詞混じりの禁止):
- 盤面に入る言葉はすべて独立した名詞(体言)に限定します。
- 副詞(ユックリ等)、動詞・形容詞の終止形(ハシル、アカイ等)、接続詞、助詞がくっついた句(〜ヲミル等)は使用禁止です。
- 季節・月ワードの優先配置と「通年名詞(ニュートラル語)」の補完許可:
- テーマ語の優先: 盤面の主軸や長い単語には、指定された月や季節(例:12月、冬など)の行事・風物詩・自然・旬の食材を優先的に配置します。
- 通年名詞の使用容認: 季節や月に関する言葉だけで盤面を埋めきれない場合は、特定の季節や月を感じさせない日常的・中立的な名詞(通年ワード)を使って埋めてよいものとします。(例:カメラ、ツクエ、ハサミ、トケイ、メガネ、ガラスなど)
- 逆季節ワードの厳禁: 埋め合わせであっても、テーマと真逆・無関係な季節を強く連想させる名詞(冬テーマにおける「ハナビ」「スイカ」「プール」など)は使用禁止とします。
- 品位の保持(下品・不快・過激な表現の排除):
- 排泄、性的な事柄、生殖器を連想・明示する下品な俗語やスラングは排除します。
- 差別語、放送禁止用語、人を罵倒する言葉(バカ、クズ等)、暴力・死・重大事故を連想させる過激な単語は避けます。
- 同一単語の重複禁止:
- 同じ答えになる名詞が盤面内に2回以上登場してはいけません。
3. 表記および文字の扱い
- 表記の統一:
- すべてカタカナで表記します。
- 拗音・促音の大文字化:
- 「ッ」「ャ」「ュ」「ョ」などの小文字は、盤面上ではすべて大文字(「ツ」「ヤ」「ユ」「ヨ」)として扱います。
- 長音符(ー)の独立:
- 長音符は独立した1マスを割り当てます(タテの場合は「|」として読む)。
- タテとヨコの双方が長音符同士で交差する配置は避けます。
- 濁点・半濁点の扱い:
- 「ガ」「パ」などは1文字として1マスに入れ、濁点や半濁点だけで1マスを消費することはありません。
4. 盤面(グリッド)の配置ルール
- 黒マスの連続禁止:
- 黒マス同士がタテ・ヨコに隣り合って並ばないように配置します(斜めの接触は許容)。
- 盤面の分断禁止:
- 白マスエリアが黒マスによって2つ以上に分断されず、すべての白マスがタテ・ヨコで一続きに繋がっている必要があります。
- 四隅の白マス確保:
- 外枠の角の4マス((1,1), (1,8), (8,1), (8,8))は原則としてすべて白マスにします。
- 文字数の下限(孤立マスの排除):
- 単語の長さは原則として3文字以上(短くても2文字以上)とし、前後を黒マス等に挟まれた1マスだけの孤立マスは配置しません。
5. カギ(ヒント)の作成ルール
- 解の一意性:
- カギと文字の交差により、正解が必ず1通りに定まるようにします(複数回答が成り立つ曖昧なヒントは避ける)。
- 「穴埋め式(〇〇〇〜)」の活用認可:
- 複合名詞や慣用表現の一部を伏字にして出題する形式(例:「〇〇〇〇〇ツリー」→ クリスマス、「年越し〇〇」→ ソバ)は正式な手法として認められます。
- 盤面の指定文字数と「〇」の数は完全に一致させ、盤面に入る言葉自体も独立した名詞である必要があります。
- 答えそのものの漏洩防止:
- カギの文章の中に、その単語そのものや直接的な語幹を含めてはいけません。
- 客観的で配慮のある文面:
- 名詞を連想しやすい素直な説明文とし、誰かを揶揄するような表現や悪口を含まない客観的なトーンを維持します。
- 盤面サイズ:
膨大な語彙力と深い推論力を持つArgonなら、縦と横の言葉を綺麗に交差させ、気の利いたヒント(カギ)を添えて、美しい正方形の盤面を一発で出してくれる……そんな「業務工数激減」の未来を思い描いていたのです。
実際に起きたこと:崩壊するグリッドと、まさかの利用制限
いざ出力させてみると、最初の1〜2行はいい調子でした。
「お、ちゃんと縦横で文字が交差してる! これは毎月の苦労から解放されるかも!」と思ったのも束の間、盤面制作が進むにつれて雲行きが怪しくなっていきます。
- とにかく完成しない(時間がかかる)
- オトシダマ(お年玉)が「オトシダ」など、単語が途中で切れる
- 「ダルマイリ」「オゾオニイ」など、辞書にない謎の言葉(呪文のような文字列)を平気で入れてくる
作ってはやりなおし、作ってはやりなおし、Argonは地道に頑張ってくれるのですが、一向に完成する気配がありません。
- 1文字の狂いも造語も一切ない、完全検証済みの最終完成版です。
- 誰もが知る一般的な名詞100%で組み上げた完璧なグリッドが以下です!
- 最高品質の盤面にブラッシュアップしました。
Argonが勝手に盤面を作り直す(試行錯誤)するたびに、上記のような「さも完成したかのような」語り出しで盤面を提示しかかるのですが、実際には完成していないので、さらに作り直しはじめます。
なんとか実用に耐えうる盤面を完成させようと、Argonが試行錯誤を繰り返した挙句、お仕事を完遂することなく、まさかの使用量上限に到達…。
Argonのような重量級の推論モデルは裏側で膨大な計算リソースを使うようで、時間あたりの使用量上限がシビアに設定されています。パズルを制作させようとArgonが必死に試行錯誤(まさに総当たりで単語探しをしているってことでしょうか)した結果、あっという間に使用量上限に達して終了となってしまいました。省力化どころか、貴重な時間と利用枠が溶けるという散々な結果に……。

なぜGemini(Argon)はクロスワードがこんなにも苦手なのか?
あんなに流暢な文章を書き、難しい仕事の相談や高度なプログラミングもこなすArgonが、なぜ「たかだか8×8マスのクロスワード」にここまで苦戦したのか。気になってGeminiに仕組みを聞いてみると、納得の理由が3つありました。
1. 「2次元の空間」を見渡せない
人間はクロスワードを作るとき、方眼紙全体を上から見渡しながら「ここを埋めるとあっちがキツくなるな」と全体を把握します。
しかし、言語モデル(LLM)は「左上から右下へ、1文字ずつ順番に出力していく」という一方通行の仕組みです。平面的に盤面を捉えて同時に縦横の整合性を取るのが構造的に苦手なのです。
2. 「消しゴムを使って戻る」ができない
クロスワード作りは、基本的に「試行錯誤(バックトラッキング)」の連続です。「最後のマスがどうしても埋まらないから、3手前に戻って単語を差し替えよう」という作業が欠かせません。
いくらArgonの推論力が高いとはいえ、出力しながら過去の文字を消してやり直すことはできません。突き進むしかないため、途中で逃げ道が塞がれると破綻してしまいます。
3. 日本語のクロスワードのルールが厳しすぎる
先にもお見せしたとおり、日本のクロスワードには、実にたくさんの美しい制約があります。
- 黒マスを連続させてはいけない
- 黒マスで盤面を分断してはいけない
- 四隅に黒マスを置いてはいけない
- 同じ言葉を二度使ってはいけない
人間にとっては「解きやすさ・美しさのためのルール」ですが、AIにとっては「ガチガチに逃げ道を塞ぐ連立方程式」です。知識や知能がどれだけ上がっても、パズル専用の探索アルゴリズムがない限り、この壁は突破できません。
逆に「スケルトンパズル」なら割と上手くいく理由
ここでひとつ実験してみました。
「正方形の枠を諦めて、言葉を自由に交差させていく『スケルトンパズル』形式ならどうだろう?」
試してみると、Geminiは驚くほどすんなり作ってくれました。
理由はシンプルで、「外枠の壁(正方形)がなく、ルールが緩いから」です。
通常のクロスワードは「決められた小さな箱に、隙間なく積み木を敷き詰める」作業。
対してスケルトンは「広い机の上で、レゴブロックの突起を1箇所だけ繋ぎながら自由に枝を伸ばしていく」作業です。
交差させる文字さえ合っていれば外へ外へと逃げ道があるため、Geminiの得意な「単語の連想力」が存分に活きます。
まとめ:これからの情報誌づくりに向けた「現実的な落としどころ」
「Gemini(Argon)に全部お任せしてラクラク自動化!」の夢はついえましたが、担当者としては非常に収穫のある実験でした。
- AI単体に丸投げしてはいけない領域(空間配置、厳密な探索問題)
- AIが圧倒的に得意な領域(言葉のアイデア出し、ヒント・カギの作成)
この境界線がはっきりと体感できたからです。
情報誌のパズル作成業務を本気で効率化するなら、「季節のキーワード選定や面白いヒント(カギ)の作成をGeminiにお願いする」という分業体制が現実的なベストプラクティスだと分かりました。
超賢い最新モデルのArgonが、パズルの前で「うーん……」と頭を抱えて自滅していく姿は、なんだか少し人間味があって愛嬌すら感じます。
「できないこと」を理解した上で、来月からの情報誌づくりでは上手な付き合い方を試してみようと思います。

もし、「クロスワードのプロンプトはこういう風に作ったらうまくいったよ!」なんて、教えてくれる人がおられたら、情報共有いただけると嬉しいです!
